「幻のラムネはこうして誕生した」
イコマ製菓本舗・平口治社長インタビュー
文・取材:河尻亨一
イコマ製菓本舗・平口治社長インタビュー
文・取材:河尻亨一
レインボーラムネのふるさとは、奈良県生駒市にあります。"幻のラムネ"はどのようにして誕生したのか?
その秘密を探るべく、イコマ製菓本舗のラムネ工場に潜入。生みの親である平口治社長にお話をうかがいました。
「これが香料なんです。ピーチのフレーバーをつけるものですね。こちらがクエン酸。こっちがアラビアガムというもので、増粘安定剤と言ったりしますけど、これで素材を固めるんです。あとは砂糖ですけど、うちのは北海道のテンサイを使ってまして。それらにコーンスターチを合わせてパウダーをつくります」
まずは、ラムネのつくり方講座から。平口さんは原材料を丁寧に解説してくれました。
「秘密なんてないんですよ。」笑顔でそう語りますが、ラムネづくり歴50年の平口さんが、選び抜いた材料を巧みにブレンドすることで生まれるのが"秘伝のパウダー"。
そのパウダーを、機械を用いて熟練の技で成型すると、まるこいボール形になります。ラムネづくりの工程はまだあるのですが、すでに完成品のようにも見えますね。
「これは出来たてのラムネやね。近所の子どもらは、『おっちゃん、これが一番おいしい!』って言うんですけど、実際おいしいんですよ。試してみますか?」
お言葉に甘えて、ひとついただきます。確かにおいしい。レインボーラムネの特徴である、カリッとした歯ごたえはまだないものの、さらっとした口どけが楽しめました。
1回の作業で152個つくれるそうです。その作業を日に何度も繰り返します。成型したラムネは乾燥機に入れて乾かしたのち包装して完成です。
"幻のラムネ"とも言われるレインボーラムネは、どうやって誕生したのでしょう? お話をうかがってみました。
「もとは父親が製菓業をはじめましてね、私は二代目なんです。父親は最初、チューイングガムや駄菓子をつくってたんですけど、ガムやチョコレートをつくる同業者が増えてきたこともあって、ラムネに力を入れはじめたんです。頑固な人だから、一年中ラムネばっかりつくってましたね。
私は少し会社勤めもしたんですけど、『サラリーマンは向いてないなあ…』と思って家業を手伝うことに決めました。それが23歳のときですから、もう50年近く昔の話です。キャラクターのラムネもずいぶんやらせていただいたんですけどね」
転機になったのは1993年。日本代表が出場するサッカーの国際試合を家族と一緒に観戦していた平口さん。のちに「ドーハの悲劇」と呼ばれることになる試合ですが、そのときあるアイデアが突然湧いてきたそうです。
「うちの家族があの試合を観て、めっちゃ喜んだり泣き崩れるようにガッカリするのを見て、『これからはサッカーの時代やな』と直感したんです。それでサッカーボールみたいに丸こくて大きめのラムネをつくれないかなと。私自身は、野球ファンなんですけど(笑)。
ただ、アイデアを思いついてからがちょっと大変でした。馴染みの型屋さんも頑固な人やからね。最初、『そんな型でけへんわ』と言われて、完成まで1年くらいかかったり、ネーミングもなかなかこれというのを思いつかなくて。ある日ニュース番組を見てたら、シュートの軌道を虹色にする『レインボーシュート!』っていうのをやってまして、それでピンときたんです」
こうしてようやく完成したレインボーラムネ。しかし、最初はあまり反響もなかったそうです。
「ラムネって、10ミリから12ミリの大きさのものが一般的なんですけど、うちのは倍くらいありますから。邪道みたいに思われたのかもね。それで工場の前で店頭直販をはじめたんです。
そしたら、近所に住んでいたある女性がインターネットで広めてくれたんですよ。お目にかかったことはないんですけど、毎日のようにブログに投稿してくれて。その頃からですね、話題になりはじめたのは。
やがて行列ができるようになり、その時間帯も早くなって、販売は9時からなのに、夏場なんかは5時くらいから並んでる方までいたり。そんなこんなでレインボーラムネ一本で行くことに決めました。ただ、申し訳ないことに生産が全然追いつかなくて。私も毎日一生懸命つくってるんですけど……」
申し訳なさそうにそう語る平口さん。2020年現在は生駒市のふるさと納税の返礼品として入手するか、毎週火曜・水曜・木曜の朝の直売で購入することができるそうですが(100袋限定。売り切れ次第終了)、入手困難な逸品であることは確か。
それで"幻のラムネ"と言われているのかと思いきや、そこにはもうひとつのエピソードがありました。
「12年前に大病を患いまして。そのときに『もうつくれないだろうな』と思って休業して、申し込んでくれてた方々にハガキを送ったんですね。『もし、仕事に復帰できたらお送りします』と。
そしたら、みなさん待っててくれたんですよ。1年も休んだのにね。励ましのメッセージやお見舞いもたくさんいただいて、元気をもらえたんですけど、その頃にあるお客さんが、"幻のラムネ"って言ってくれたんです」
平口さんはラムネづくりが心底楽しい様子でした。仕事のやりがいについてはこう話します。
「つくってたら楽しいですね。店頭で直売してますから、みなさん喜んでくれる顔が見られるのもうれしいですし、お話できるのも楽しくて。リピーターの方も多くて、生の声を聞けるのがいい。『みなさんに助けられてここまで来れた』ということを日々実感しています」
「元気なあいだはラムネづくりを辞めたいとは思わない」と語る平口さんには、次の目標があるそうです。
「目指すは"たこ焼き"みたいなラムネです。外はカリカリで中が柔らかい。2007年に一回出来たんですけどね。以来、その味わいが再現できてませんから、引き続き挑戦していきたいです。それと、できる範囲内で、私の思っていることを伝えていきたいなと思っているんです。だんだん、年もとってきましたから。
実は大阪のあるお店の社長が友だちでね、そこの先代が昔すごく美味しいラムネをつくっていたと聞いて、再現に取り組んだことがあるんですよ。でも、レシピが残ってなくて、途中で断念せざるをえなかった。そんなこともあって、今回のコラボレーションも決めたんです。技術だけでなく思いを継承したいですね」
こうしてイコマ製菓本舗とのコラボレーションが実現し、完成したのが「レインボーラムネミニ」。"幻のラムネ"の「技」と「思い」を詰めこんだミニサイズでお届けしています。